導入事例
社内は当初、長年培ってきた仕事のやり方を変更することに戸惑いがありました。
それでもMerQuriusを導入するために、まずしたことは・・・
株式会社 永谷園 品質保証部 品質保証室 室長 浦田 豊 氏(写真左)、大内 景子 氏(写真中央右)、同部 商品情報室 菅原 正代 氏(写真右)、マーケティング本部 表示課 課長 栗本 治子 氏(写真中央左)にMerQuriusを導入した経緯とその効果について詳しく聞きました。
日本初のお茶づけの素「お茶づけ海苔」(1952年)を発売後、1953年4月に「株式会社永谷園本舗」として設立された加工食品メーカー。お茶づけのほか、ふりかけ、みそ汁、そうざいの素など幅広い商品を手がける。札幌、仙台、関東信越、東京、名古屋、金沢、大阪、中四国、福岡に支店営業所。
年商1,205億円。従業員数2,607名。(グループ連結。2025年3月末時点)
(浦田氏):永谷園ではMerQuriusを、商品原材料情報を管理する基幹システムとして全社的に活用しています。かつては複数の情報データベースが社内に「散在」していましたが、現在はMerQuriusに集約されています。何か情報を見たいときは即MerQuriusにアクセス、今や「あたりまえ」を超えた存在です。
MerQuriusシリーズであるMercriusで商品情報を管理、Quebelで表示情報を制作、管理、MerQurius Netでサプライヤーからの原料規格書を統一書式でデジタル管理、加えて、AI校正アシスタントP2Aiで包材の文字やデザインを半自動校正しています。
【システム概要図】
(大内氏):もっともMerQuriusを使っているのが品質保証部です。お客様から原料に関する問い合わせが来たら、ただちにMercriusで検索し、すばやく回答します。この他、営業部門が取引先に提出する商品カルテもMercriusを使って作成しています。
原料の採用可否は、品質保証部が事務局である組織横断型の委員会(原材料採用委員会)が行っています。「このサプライヤーならOK(どの原料でも)」といった大雑把な判定ではなく、使う「原料ごと」に原料規格書を確認しOK/NGを細かく判定します。採用後も毎年原料規格書を更新し、採用可否の確認を継続的に行っています。これにより可否判定を行う原料数は毎年1,000以上に及びます。
MerQurius導入以前は、原料規格書の入力ややり取りに時間を要し、十分な頻度での確認が難しい状況でした。MerQurius Netでは、サプライヤーとの情報連携が効率化され、規格書の情報も前年との変更点が色分けで表示されるため、差異を一目で確認できます。
以前の規格書管理は、非常に煩雑でした。かつては、永谷園のエクセル書式をサプライヤーに配布し、そこに記入してもらう方法をとっていました。形式上は統一されていても、実際に記入される内容にはバラつきがありました。たとえば、あるサプライヤーは「じゃがいも」と書き、別のサプライヤーは「ポテト」と書く。半角・全角の違いもあり、後から検索するのが困難でした。
規格書を比較する場合には、ディスプレイで並べて見比べたり、印刷して机に並べて確認したりと非常に手間がかかりました。しかも、人によって見方にばらつきが生じ、属人化も避けられませんでした。
さらに、規格書の量も問題でした。1,000原料の可否判定をするなら1,000個のエクセルが発生する。それが毎年続けば規格書のエクセルがファイルサーバに溜まっていき、やがて管理しきれなくなる危険性もありました。
現在では、MerQuriusにすべての原料規格書が一元管理され、書式・項目・用語も統一。検索・比較も迅速かつ正確に行え、業務効率は飛躍的に向上しました。
加えて、原料規格書の提出状況の管理も格段にしやすくなりました。以前は、「これから依頼」「依頼済・回答待ち」「修正依頼中・回答待ち」「提出完了」などの進捗を原料ひとつひとつ手作業で追う必要があり、「この規格書、今どうなってたっけ?」と混乱することも珍しくありませんでした。
MerQurius導入後は、提出状況ごとに絞り込み検索ができるようになり、たとえば「未回答」の規格書一覧を一発で表示させることも可能です。管理がだいぶ楽になりました。
「MerQuriusは全社共通のデータベースです」
浦田 豊 氏
「営業部門、生産部門でも活用しています」
菅原 正代 氏
(菅原氏):営業部門が取引先に提出する商品カルテは、商品の種別、概要、サイズ、重量、画像など各種情報をまとめて作っています。MerQurius導入前にも商品カルテは作成していたのですが、これまで別管理だった原料規格書、商品詳細情報、包材や生産情報などをMerQuriusで一元管理したことで大きく活用の幅が広がりました。
以前は、各営業担当者が見積書を作成する際には、社内あちこちのデータベースから情報を集め、転記とコピペで作成していました。これでは時間もかかり、正確な最新情報が使用されない可能性も出てきます。現在は必要な情報がMerQuriusに一元化されているので、統一された最新情報を簡単に出力することができます。
表示課はQuebelを使って表示作成をし、開発部門では、原材料採用委員会にて採用可となった原料について、MerQurius上のデータを使って試作に移ることができます。
さらに、包材ビュー、生産ビューをカスタマイズで追加したことで、生産部門でもMerQuriusの原材料情報、包材情報、製造規格などの生産情報を参照・活用できています。今やMerQuriusは「社内共通の統一データベース」としての地位を確立しました。
(浦田氏):MerQuriusは2015年頃に展示会を通じて知りました。当時は世間で起きた食品事故の影響で、食の安全・安心への関心が高まっている時期でした。
当社は従来、商品原材料情報はエクセルを手作業で管理していましたが、それでもお客様からの問い合わせには必要十分な水準で対応できていました。ただ今後の社会、そして事業環境の変化を考えれば、それもいつか立ち行かなくなる、そんな危機感に突き動かされ、商品原材料情報のシステム化を社内に提案しました。
ただ当初は社内、特に現場の反応は芳しくありませんでした。みな正面切って反対しないものの全体としては、濃度の差こそあれ「乗り気ではない」感触でした。
今の情報管理体制がいつまでも万全ではないこと、それについては社内の誰もが首肯します。しかし同時に「今は何とかなっている」ということも、また事実なのです。なのに、なぜわざわざシステム化しなければいけないのかと。
また当社は昭和から続く会社です。長年培ってきた業務への誇りと信念を持つ社員も多く、そこにシステムが入れば、これまで慣れ親しんだ仕事のやり方がガラリと変わってしまう。それは基本、誰も望んでいません。「抵抗勢力」とは強い言葉ですが、そういう流れはたしかに、ありました。
(栗本氏):実は私自身、システム化への大きな懸念を抱いていた一人でした。MerQuriusは今でこそ毎日、使っていますが、最初、品質保証部から話があったときは、抵抗感の方が大きかったです。私が恐れたのは「システム化といえば聞こえはいいが、それ、本当にうまくいくのか?」ということ。永谷園の製造過程は、半製品(仕掛品)がいくつもの商品に紐づいており、どこか一つ狂えば広い範囲に影響が及びます。その複雑さに本当に対応ができるのか?大々的にシステム化したのはいいけど、複雑な商品構成にシステムがなじまず、逆に人手作業が増えて非効率になっちゃうんじゃないかと、心配でした。
(浦田氏):MerQuriusのユーザー企業を視察訪問しました。JFEシステムズに訪問先を紹介してもらい、各部門の関係者を連れて、都合7社ほど視察しました。
反対派のみなさんに私たちがいくら説得しても水掛け論に終わります。
やはり実際に導入した企業の話の方が説得力がある。視察の際は「システム化して本当にうまくいきましたか?」のような直接的でネガティブな質問もしました。そういうきわどい質問をするときは、同席するJFEシステムズがクッション役をつとめてくれるのも助かりましたね。
だからといって反対派の人々がただちに賛成派に転換したとか、そういう劇的な話は特にありませんでした。表面上はいつもと同じです。ただおそらく心の中では、すでにシステム化を終えている企業に実際に会い、肯定的な導入効果の話をきいたこと、その影響は少なからずあったと思います。
(浦田氏):MerQurius導入のメリットは、データの一元管理によるトレーサビリティ精度の飛躍的向上と、業務効率化による現場力の最大化にあります。
そこで、まずは「日常業務の時短化・効率化」など業務効率化に焦点を当て、従来の業務を細分化し、導入前後の仕事量を定量的に可視化しました。原料規格書の取得から規格書チェック、表示作成などMerQuriusに関わる業務のすべてで試算し、業務効率化の全体効果を精密な内訳も含めて経営陣に示しました。
現場に対しても、経営層に対しても、社内を説得するのに、何か劇的、画期的な方法があったわけではありません。あの手この手で粘り強く説明しつづけただけです。その甲斐あってか、2018年にまずMerQurius Netの導入が決まりました。その後、立て続けにMercrius、Quebelも導入しました。
導入プロジェクトが動き出してしまえば、社内は粛々と動いていきます。しかし、社内への説明作業はここで終わったわけではありません。
(大内氏):地道なデータ入力作業についての説明です。MerQuriusを導入したからといって、その日から統一データベースが使えるわけではありません。最初は容器だけで中身は空、そこに膨大な規格書のデータを改めてMerQurius上で取得し直す必要があります。この立ち上げ作業が大変でした。
業務の合間を縫って地道に入力する。業務がラクになるのはデータ入力が完了した「後」の話。導入初期段階では明らかに仕事が増えます。だからこそ、その先にある理想の姿、例えば、業務がどう効率化されるのか、会社全体がどう良くなるのか、さらには取引先や一般のお客様にどんな利益がもたらされるか、その意義を丁寧に説明し、入力作業の目的を感じてもらえるよう、ビジョンを共有するように努めました。
さらに、システムが「導入して終わり」にならないよう、社内アンケートを何度も実施するなど、定着に向けた取り組みも続けました。
いまでは、MerQuriusは社内の基幹情報システムとして、フル稼働しています。
(栗本氏):本当に便利で、毎日のように使っています。たいていのことはMerQuriusでできます。やり方を工夫すれば色々と活用できるシステムだと気づきました。
以前、私たち表示課は5~6人で仕事をしていました。今は同じ量の仕事が、3~4人でこなせています。システム化の定量的な成果といえるかと思います。業務は本当によくなりました。
(菅原氏):MerQuriusで商品情報の一元管理ができるようになったことで、社内から同じことを何度も聞かれなくなりました。もっと活用できるように、決まった使い方だけでなく新たな付加価値を見出せるような施策を考えています。
「最初はシステム化に不安がありました」
栗本 治子 氏
「導入後も根気強く説明を続けました」
大内 景子 氏
(浦田氏):今後の展開としては、まず「カスタマイズの削ぎ落とし」を検討しています。かつて良かれと思い施したカスタマイズも、時がたち、今やシステム進化の足かせとなるものもでてきました。ならば費用をかけてこのまま維持するより、むしろ業務の方をシステムに合わせて標準化する方が、総合的な利得は大きくなるといえます。
次に海外展開。MerQuriusは今、日本国内でだけ使っていますが、運用が確立した暁には海外事業での活用も考えて良いかもしれません。
JFEシステムズへの評価ですが、まずシステムを安定稼働させてくれたことに感謝したい。導入後に動作が不安定だと、それこそ反対派から「それ見たことか」と言われてしまう。静かに、確実に安定動作すること、社内に定着させるために、もっとも重要なことです。
また他のユーザー企業への視察訪問の支援など、ユーザー間の橋渡しをしてくれたこともありがたかった。食品業界で品質保証は競争分野ではなく、横のつながりを深め業界全体の品質保証力を高めることが重要です。JFEシステムズには今後とも食品業界の「ハブ」としての役割を期待します。引き続きよろしくお願いいたします。
- お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。
※この事例に記述した数字・事実はすべて、事例取材当時に発表されていた事実に基づきます。数字の一部は概数、およその数で記述しています。